磁気焼鈍は「じきしょうどん」と呼びます。名前に「磁気」とある通り、材料の持っている磁気を整える目的で行われる熱処理です。
磁気焼鈍は主に「軟磁性材料」に対して行われます。軟磁性材料とは、磁力のある材料が近くにあると磁力を持つ反面、磁力のある材料が周りになければ磁力を持たない特徴を備えています。この周りの磁力に反応する能力を「透磁率が高い」といいます。
軟磁性材料には「パーマロイ」「純鉄」「パーメンジュール」「ケイ素鋼板」「電磁ステンレス」などがあげられます。これらの磁力の保持する力の少ない軟磁性材料であっても、材料を切削加工やプレス加工のように外部から力を加える加工をすると、内部に歪みが発生してしまいます。歪みが発生するとその部分は磁化してしまい、磁力を保持してしまいます。そして磁力を保持してしまうと、軟磁性材料の本来の性質を発揮できなくなります。
「磁気焼鈍」は加工して歪みが発生し、磁化してしまった軟磁性材料から磁化した組織をもとに戻すのが目的で行われます。水素ガスや真空中の炉に材料をいれ、磁力を取り除くのに適した温度まであげ、ゆっくりと冷却します。こうすることで軟磁性材料の再結晶化を促し、磁化した組織を透磁率の高い状態に戻せるのです。
磁気焼鈍とよく似た処理に「焼きなまし」がありますが、こちらは材料の内部応力除去や軟化を目的に行われるのが特徴です。処理が行われる温度帯や雰囲気が大きく異なります。
磁気焼鈍の処理を施すと透磁率が高まることがわかりました。続いては透磁率を高める目的について解説します。
透磁率が高い軟磁性材料は、周りに磁力があると磁力を持ちますが、周りから磁力がなくなると磁力を保持しなくなります。つまり、磁気をオンの状態にすればくっつき、オフにすればくっつかないというコントロールができるわけです。
磁気のオン・オフはコイルに電気を流すことで簡単に実現できます。電気の流れを制御すれば、軟磁性材料にくっついたり、離れたりという直線的な動きを与えられるのです。この性質を利用した代表的な機構が「ソレノイド」です。
通常の軟磁性材料でも上記のような動作は可能ですが、磁気焼鈍を施し透磁率を高めた軟磁性材料であれば、小さな電力でもキレのある動作ができるようになり、省エネルギーで動作できる優れた電子部品になります。
バッテリーをできるだけ消費せずに電子部品を駆動させたい自動車などでは、磁気焼鈍を施した部品が理想的です。近年では自動車には電装部品が非常に多く搭載されていることもあり、省電力化の重要度が以前よりも高まっています。そのため、磁気焼鈍の需要が大きく高まっているのです。
磁気焼鈍を施した部品は、電磁弁のコア材料、各種トランスのコア、モーターの制御装置など、様々な分野で利用されています。
また、軟磁性材料は磁力を遮断する能力が高くなっています。磁石を鉄にくっつけると、磁石をくっつけた反対側は極端に磁力が弱くなります。軟磁性材料はそのままでも透磁性が高い材料ですが、磁気焼鈍でさらに透磁性を高めると、磁気を遮断する能力も高くなります。この性質は「磁気シールド」として利用されます。
磁気シールドは、携帯電話やパソコンなどの電子機器のノイズ対策などに活用されています。
磁気焼鈍が施される材料は、主に
・パーマロイ
・純鉄
・パーメンジュール
・ケイ素鋼板
・電磁ステンレス
などがあげられます。
「炭素鋼は磁気焼鈍できないのか?」と思う方もいるかもしれませんが、炭素を多く含んだ炭素鋼などは、水素雰囲気の中で熱処理をする際に炭素分が抜けてしまいます。炭素分が抜けると、炭素鋼本来の強度を発揮できなくなるため、磁気焼鈍には適しません。そのため、軟磁性材料としては、純度の高い鉄が利用されます。
磁気焼鈍をするときの雰囲気について、大きくわけて、真空と大気の二種類があります。通常の大気焼鈍では冷えるときに金属表面で酸素と結びつき、酸化し、黒色系に色変わりします。酸洗や化学研磨や物理研磨で取り除くことはできますが、寸法変化やコストに課題があります。これを防ぐために「窒素」「アルゴン」などのガスを炉内に充填し、熱処理する雰囲気焼鈍があります。
同様にして、「窒素」「アルゴン」を使わずに、炉を真空にして焼鈍する真空焼鈍があります。真空中で処理するため、酸化や脱炭を抑え、酸化膜ができないので、表面の光沢を失うことなく、高い仕上がりになります。
酸洗いなどの後処理が不要になり、環境にも優しい処理方法です。脱炭を抑えることができるので、硬度のばらつきも少なくなります。熱処理後の冷却スピードも遅くすることができるため、内外の温度差によって生じる歪も小さくなります。
コミヤマエレクトロンでは顧客の要望に合わせて、加熱温度、加熱上昇時間、加熱保持時間を設定できます。
各条件に合わせて、最適な制御パラメータを設定し、ご要望に応えております。
真空熱処理は精密部品に適した処理方法です。真空中で処理するため、コンタミなどの汚染がなく、特に真空環境に用いる部品には最適は熱処理方法です。
弊社の真空熱処理装置はターボ分子ポンプ(TMP)を搭載しているため、高い真空度で処理することができ、放射光施設などで使用される高い真空度を求めている部品の処理に最適です。
弊社の真空熱処理装置は四重極型質量分析計(QMS)を常設しており、常に投入された部品によって炉内が汚染されていないことを監視しています。
また、投入する部品による汚染も防ぐために、事前に部品洗浄を実施しています。このように高い品質が維持されるように管理しております。